マインド・コントロール




                                      偽りの記憶                                  

 一九九九年五月十五日、アメリカのミネアポリスで私(パスカル)がマーガレットーシッガー教授に行ったインタビューに基づいて偽りの記憶-False Memoryについて紹介したいと思います。 マーガレットーシンガー教授はカリフォルニア州バークレー在住の臨床心理学者で、カリフォルニア大学バークレー校名誉助教授です。数多くのカルトの元メンバー、およびその家族、友人の治療をしておられ、アメリカと全世界のマインドーコントロールとカルトに関する著名な研究者の一人です。

  ―偽りの記憶とは何ですか。
 「私(シッガー教授)は偽りの記憶を作り出すある種のセラピストの治療を受けた四百人以上の人にインタビューをしました。そして、治療と称する暗示、催眠術のテクニックとセラピストの権威の悪用によって、偽りの記憶を作り出すことができると考えています。催眠術をかけるには四つの方法があります。第一は、一つのストーリーのある話を使って催眠状態にもっていく方法、第二は、あることばを何回も繰り返すことによって巧みに催眠状態にもっていく方法、第三は動く物を使う方法、第四は、ある物体を凝視させることで催眠状態にもっていく方法です。
なぜこの種のセラピストは患者を『トランス状態に誘導』(trance induction)するのでしょうか。すなわち、催眠術のテクニックを使って物やことばに神経を集中させ、考え、判断力などを停止させようとしています。そうすることによってセラピストにだけ注意が向くように仕向けているのです。催眠術は、相手を集中させ、焦点をしぼり、そして暗示を受けやすくさせます。この催眠術とセラピストの権威との悪用によって、自分の意見や判断力がどんどんなくなってしまうのです。
 偽りの記憶を作り出すセラピストは、単純な一つの考え方を中心にしています。すなわち、患者の問題はすべて、子どものときに受けた両親あるいは父親からの性的虐待や暴力が原因だとする考えです。そして、患者が父親あるいは母親を非難すればするほど、問題は解決できると言っています。ほとんどの場合、この種のセラピストは心理学の研究者ではないし、何の資格ももっていません。しかし自分はセラピストであると言って、その権威を悪用しながら、患者一人一人に、その人の問題は両親からくるのだと時間をかけて説明し、納得させます。
 私かインタビューした人たちは、診療室に入るとセラピストが催眠術のテクニックを使って、彼らを催眠状態にもっていったと言っています。患者が催眠状態に入ると、セラピストは直接的、あるいは間接的に暗示をかけます。
直接的に暗示する場合、セラピストは患者に『あなたは子どものときに肉親から、性的虐待や暴力を受けていた』と言います。あるいは『母親や兄弟や第三者から傷を負わされた』と言います。
 間接的に暗示をするときは、たとえば、『六歳のとき、あなたが自分の部屋にいると、父親が来ていっしょに遊びましたが、それはどういう遊びでしたか。どんな話をしましたか』と言い、それについて患者に考えさせます。その場合、決して『父親が暴力や性的虐待をしたかどうか』ということは話しません。
 そして、患者が催眠状態から覚めると、セラピストは、『あなたが催眠状態のときに、あることを発見しました』と意味ありげに語ります。そして患者が診療室を出るときは、『この一週間、部屋の中で父親とあなたの間に何かあったかよく考えてください。来週また話しましょう』と言い、見送るのです。
 直接的に暗示をかける場合、患者が催眠状態から目覚めたとき、『催眠状態の間に発見したことがあります。十一歳のとき、父親があなたの性器にさわったことを覚えていますか』と言います。患者はその事実がなくとも、『はい、覚えています』と答えてしまうのです。患者は催眠状態のときに何か起きたのか、あまり覚えていません。セラピストは『偽りの記憶』を信じ込ませるためにあらゆる方法を使い、患者は、セラピストの言うことを信じないではいられなくなります。
 これらのテクニックのほかに、もう一つ重要な要素があります。セラピストと患者との『信頼関係』です。患者はセラピストを信頼できる権威ある人物と思い込んでいるので、いっそう影響されやすいのです。
こうして、セラピストは患者にいろいろな作り話を信じ込ませることができます。たとえばある患者に対して、前世で殺人を犯したとか、たくさんの罪を犯したとかと思わせ、強い罪の意識を与えることができます。また、患者の心の問題について、それは幼いときに宇宙人に誘拐され、性的虐待を受けたからだと信じ込ませたケースもあります。
 偽りの記憶を作り出すために、その人の本当の過去は必要がありません。セラピストの権威、催眠術のテクニック、直接的・間接的暗示を使って、その人の問題を説明するような偽りの記憶を作り出すことは可能であると思います。
 アメリカでは普通のセラピストは、患者が自分の問題を解決するために何を考えなければならないかを患者自身に考えさせます。そして患者はカウンセリングを受けながら自分で自分の問題を理解していき、自分を解放することができて、治療は修了します。ところが詐欺を行うセラピストは、たくさんの治療費をとることだけを目的にしています。
 このような詐欺にあった人たちは、時間がたってから、自分の受けたカウンセリングについていろいろ考えはじめました。彼らはセラピストが発見した『記憶』について、まったく思い出すことができませんでした。そして、その『記憶』がいつも催眠状態から覚めたときにセラピストに指摘されたり、暗示されたりしたものであったことに気づき、自分がどのようにだまされたのか少しずつわかってきました。
 すでに説明したように、私は四百人以上の人にインタビューをしてきました。そのうち二百人以上は、これらのセラピストを裁判に訴えています。裁判で彼らは、自分がセラピストにコントロールされ、偽りの記憶を信じさせられたことにより、どれほど人生がおかしくなり、家族に迷惑をかけたかを証言しました。」
 いろいろなカルトが、偽りの記憶を作り出し、メンバーたちに信じ込ませます。シンガー教授は、カルトの中で偽りの記憶を信じさせられた人のカウンセリングをしたことがありますか。
  「はい、たくさんあります。
 一つの実例ですが、ある大学生は、一年生のときにカルトに誘われて、メンバーになりました。彼は両親をとても愛していました。ところが彼の入ったカルトは、彼の父親が彼と母親に何度も暴力をふるい、妹に性的虐待をしたと信じさせました。私は彼の話を聞いて、あるセラピストが人をだますために使っているのと同じような方法を使っていると思いました。彼はその偽りの記憶を信じ込み、ピストルで父親を殺そうとまで考えました。しかし、尖行できませんでした。ある意味で、彼の組織が彼の行動を阻止したのです。組織責任者たちが、彼をある仕事のために別な町に送ったのでした。
 彼は何日もひとりになったので、組織が今まで教えていたことを考えてみる時間ができました。そして精神的に落ち込んで、不安になり、妹に電話をしました。妹は、『そんなばかなことはない。組織が教えたことはすべてうそよ』と言いました。妹は、組織が彼にどのように教えていたかをさらによく聞きました。彼は妹と話しながら、今までのことを振り返ることができました。そして妹は、『兄さん、ちょっと考えてみて。私は十五歳のとき、勉強するために家から離れて、別な所に住んでいたのよ』と言いました。彼はそれを聞いて、『本当だ、それを忘れていた』と、妹の言うとおりだったと思い出しました。
 そのことがきっかけで、彼は今まで組織が教えてきたことはおかしいと思いはじめ、組織に戻るよりも自分の家に戻りました。その後、私やほかのカウンセラーと話し合い自分かだまされていたと理解し、その組織から脱会することができました。

 

 多くのカルトは、偽りの記憶を与えます。それはメンバーたちを自分の家族、自分の過去、育った文化や伝続から引き離すためです。それによって、カルトがメンバーにとって本当の親、理想家族、理想社会となり、カルトとともにあって、真の愛、真の自由を得ることができると信じ込ませることができるのです。」
偽りの記憶を信じ込んでいる人に、だまされたと気づかせるには、どうしたらよいでしよう。
 「これにはゆっくりとしたプロセスが必要です。私は普通、偽りの記憶を信じ込んだ人に次のように話します。『あなたはとても元気で、健康であり、大学に行って(あるいはいい仕事をして)いました。この組織に行く前に自分について、自分の人生について、いろいろ考えたでしょう。自分と家族についても、いろいろな思い出や考えがあったでしょう。
 ところで、あなたが今、家族に対してもっている思いや考えは、過去にいだいていた思いと同じですか。違うのであれば、いつから変わりましたか。……そして、父親があなたに暴力や性的虐待をしたと、その組織に入ってから思い出したのはなぜですか。今すぐでなくても結構です。一週間考えて、来週、思い出したことについて説明してください。』
 いろいろな質問を通して、その人はカルトに入る前の自分と家族について、自分の人生について、もう一度考えることができます。そこから、自分や両親に対する思いが自分の本当の思いかどうか、考えはじめます。もちろん人によって質問の内容は変わることがあるし、解決するまでの時間も個人差があります。」
カルトから脱会後、元メンバーが自分に対して、また父母、兄弟、その他の人に対して強い不満や不信感や怒りをもつ場合があります。偽りの記憶によって元メンバー自身も、その家族も、傷つけ合うことになってしまいます。その思いは本当に自分のものなのか、どこからきたのか、いつからきたのか、それは組織に入る前からだったのか、入ってからなのか、いろいろな角度から確認することがとても必要です。



マインド・コントロ−ルの三つのステップ

 破壊的カルトはメンバ−にマインド・コントロ−ルをかけるために、複雑で様々なテクニックを使っています。その中で代表的な方法を三つのステップで表わすことができます

              1:だまし;詐欺:

 

 破壊的カルトは、人々が求めていて望んでいるものや人生の意味がそこで得られるかのように信じ込ませます。伝道されている人々は、自分の成長や社会あるいは世界の平和がこのグル−プを通して実現できると思わせられてしまいます。しかし自分たちの目的とそのグル−プの本当の目的が全く違っていることを知りません。その環境の中で安心しながら信頼して、一生懸命このグル−プのために働いています。そして知らない内にそのグル−プの考え方や感情を身に付けていき、簡単に言うとそのグル−プのメンバ−(信者)になります。

 

2:依存、頼る:

 

 徐々に環境をコントロ−ルしながら、破壊的カルトはメンバ−たちを外部 (家族や友達や普通の社会)の、グル−プに対する否定的な影響から引き離すようにします。そうした環境の中でメンバ−たちはグル−プに対して少しずつ批判的能力がなくなっていきます。最終的に、メンバ−たちはそのグル−プにすべて依存するようになっています。

 

3:恐怖、脅し:

 

 いったん依存する状態が完全にできてしまうと、破壊的カルトは自分たちのメンバ−の考え方、感情、行動を全てコントロ−ルすることができます。メンバ−はそのグル−プの精神的な支えを失うことに対する恐怖がだんだん大きくなっていきます。自分で判断することが難しくなるのです。メンバ−がそのグル−プをやめないようにするためにいろいろな脅しも使われます。

 例えば「そのグル−プを離れたら、自分や家族が病気になったり、事故に遭う」とか「死んだら地獄に落ちる」などと信じ込まされています。あるグル−プでは、(オウム真理教のように)脱会した人々に対して暴力を振るうことまでします。
 そのような恐怖を植えつけることによって、結果的に、メンバ−たちをそのグル−プやリーダーに完全に服従させることになります



 マインドコントロ−ルの事例の研究


 
1950年〜1952年の間の朝鮮戦争の時に、多くのアメリカ兵が、中国と北朝鮮の捕虜となって、精神操作の教育を受けたということがありました。そのアメリカ兵たちは、帰国しても、まだこの精神操作の教育が頭の中に残っていました。つまり捕虜から解放され、自由の身になってからも、彼らは教育を受けたとおりに「毛沢東主義」の宣伝をしていました。それは、アメリカの政府にとって非常に重大な問題でした。そこで何人もの心理学者たちが、中国で捕虜となったこの人たちと長い時間面接して、中国の共産主義者がアメリカ人捕虜にどういう教育をしたかを調査しました。その人たちは、催眠術にかかっているような感じでした。彼らと話をした、心理学者の一人にロバ−トリフトンという人がいました。彼は、その研究の中で人の精神操作をするために、だいたい8つの方法が使われていることを発見しました。中国の共産主義者たちが用いていた方法というのは、以前よく用いられていた、人に罰を与えて再教育するよりもはるかに効果的な、教育のしかたでした。彼らが使っていた、この精神操作の方法は非常に頭脳的な人たちが考え出したものです。その年のうちにこの中国の共産主義者と同じような教育のしかたをしている破壊的カルトが明らかになりました。ロバ−トリフトン博士は、自分の研究の結果について『思想改造の心理』という本を書きました。その第22章で博士は「思想改造プログラム」の8つ基準を述べています。これから、簡単に紹介していきたいと思います。




1:ロバ−ト・リフトン博士


1:環境コントロ−ル
環境コントロ−ルとコミュニケ−ション・コントロ−ル他者とのコミュニケ−ションに限らず、個人の内面のコミュニケ−ションも含まれています。

「最終目的」を達成するという真理のもとでは、全ての人が全ての人を操作していると言えます。自然に起こったように見せかけた体験も、実際に計画的効果を発するよう巧妙に操作されたものであり、霊的と思われる体験も、実は仕組まれたものにすぎません。
3:言語の詰め込み
言語を管理することで思考の管理が容易になります。全体主義集団は、現実を黒と白にはめこむために全体主義の言語を使用します−「思考を停止させる決まり文句」。外部の者は信者が話す言葉を理解できません。この使われる言葉は人間の理解力を発展させるよりも、むしろ押さえ付けるものなのです
4:教義の優先
実際に体験した事より「教義の真理」のほうが重要と考えています。「全体主義的集団の真理」が良心や誠実さに取って代わります
5:聖なる科学
全体主義的集団では、自分たちの教義は科学的で、道徳的にも真理であると信じられています。他の見解を持つことは許されず、教義に疑問を抱くことも禁止されています

6:告白の儀式
人格の境界を打ち破り、集団のル−ルに適合しない思想、感情、行動は全て告白するよう要求させます。プライバシ−は全く、もしくはほとんどありません

7:純粋性の要求
いかなる人間も達成できないような完璧な基準を掲げることで、罪と恥の意識をかきたてられます。集団の思想に従えないものは罰せられ、自らを罰することを学びます

8:存在の配分

存在する権利を持つ者、持たぬ者を決めるのは集団です。全体主義的集団には他に正当な選択肢は存在しません。政権の場合は国家による処刑も許すものです。




2:エドガ−・シャイン博士



 エドガ−・シャイン博士もリフトン博士のように中国の「毛沢東主義の精神操作」の方法を研究しました。その当時、中国と北朝鮮で捕虜になっていた多くの人たちと話しあったうえで、『強制的説得』という本を書きました。その本の中で、中国の精神操作について三つの段階「解凍−変化−再凍結」に分けることができると述べています。シャイン博士によれば、「解凍」とは人の自己(アイデンティティ)が少しずつ、くずれこわれてしまうこと、『変化』とは再教育を通しての教え込みのプロセス、さらに「再凍結」によって新しいアイデンティティを作り上げたうえで、本人の今までの生活を捨てさせます。今日でも、多くの破壊的カルトでこの三段階の方法を見ることができます。

A「解凍」

 

a混乱
b感覚の剥奪及び/又は感覚への過重な負担
c生理的操作
1睡眠の剥奪
2プライバシ−の剥奪
3食事の変更
d催眠の利用
1年齢退行
2視覚化
3物語と暗喩
4言語による二重の呪縛、暗示の利用
5瞑想、歌唱 、詠唱、祈祷
e自己のアイデンティティに疑問を抱かせる
f個人の過去の再定義(偽り記憶を埋め込み、肯定的な過去の記憶を忘れる)
B「変化」
a新しい自己(アイデンティティ)の段階的創造と移植
1教化セッションによる儀式的な方法
2メンバ−、ビデオ、本等による儀式張らない方法
b行動修正技術の利用
1報酬と罰
2思考停止技術の利用
3環境コントロ−ル
c神秘的操作
d催眠術その他の精神改造技術の利用
1反復、単調、リズム
2過度の詠唱、祈祷、(神の)命令、視覚化
e告白と褒誉の利用
C「再凍結」

 

a新しい自己(アイデンティティ)の強化と以前の自己の降伏
1過去と訣別、友人や家族との接触の減少もしくは断絶
2大切な所有物の放棄と財産の寄付
3破壊的カルトの活動の開始−勧誘、資金調達、メンバ−との同居
b新しい名前、服装、髪形、言語、「家族」
c新たなロ−ル・モデルとペアを組ませる、二人組制
d教化の継続−ワ−クションップ、隠遁、セミナ−、個々の研究、集団生活
 破壊的カルトのマインドコントロ−ルは以前の自己(アイデンティティ)を消す
のではなくむしろ新しいアイデンティティが過去のそれを抑圧するということを理解
しなければならないと思います。



3:マ−ガレット・シンガ−教授



 マ−ガレット・シンガ−教授は心理学者で、現在アメリカのカリフォニア大学バ−クレイ校の名誉教授です。長い間、シンガ−教授は破壊的カルトの精神操作の方法について研究して、数多くの元破壊的カルトメンバ−や家族にカウセリングやインタビュ−をしてきました。
 マ−ガレット・シンガ−教授によると、マインドコントロ−ルは何も目新しいものではありません。何世紀も昔から、ある種の人々は、他人を自分の思いどおりに動かし、しかも相手がそのコントロ−ルに気づかないよう、社会的、心理的操作を行なってきたのです。朝鮮戦争の時、シンガ−教授は軍のために働いていました。その時、捕虜になった国連軍の兵士が思想教育を受けていたので、それを研究しました。やがて、アメリカ国内に様々な破壊的カルトが生まれ、キャンパスで学生たちを熱心に勧誘しはじめました。その時、特に目を付けられたのは、社会心理学を専攻している学生たちでした。人の心を操作する方法をよく心得ているからです。彼らの力によって、最近の破壊的カルトは、より巧妙なマインドコントロ−ルのテクニックを身に付けました。でも、その実体は古典的なマインドコントロ−ルの手法を自分たちのニ−ズに合うよう、うまく改良したものなのです。マインドコントロ−ルの本質は、行動をコントロ−ルして、特定の思想や感情を無意識のうちに、他人に強制するプログラムです。決して、ミステリアスなものではありません。ただ、昔からある技術を組み合わせて、うまく利用したものなのです。でもそのプログラムは以前とは比較にならないほど強力なものになっています。かつて、社会主義体制の中で行なわれた思想教育は政治的理念に的をしぼったものでした。破壊的カルトのマインドコントロ−ルは特定の理念だけでなく、人間の感覚全体を麻痺させて、徐々にその心の奥深くに侵入していきます。それによって、より全人格的なコントロ−ルが可能になっていくのです。一旦、彼らのプログラムにはまってしまうと、人は自分の過去に不安を抱くようになります。両親の注いでくれた愛情にも疑いをもちはじめます。教師の教えてくれたことにもです。他の宗教や政府にも疑いをもつようになります。全てに対して、不信感をもたせるよう周到なプログラムが組まれているのです。人をそのような不安定な精神状態に追い込んだところで、唯一の救いとして、彼らは破壊的カルトの教義を教え込みます。破壊的カルトのリ−ダ−達は、そのようにして、人々の現実感を奪い取るのです。
 シンガ−教授は破壊的カルトによるマインドコントロ−ルの特徴として6つの要素をあげています。

1:隠された意図
 信者の自己(アイデンティティ)を変えようとしていることを気づかれ  ないように、心理  操作は少しずつ緩やかに行われます。

2:時間と環境コントロ−ル
 次に信者は人里離れた場所に連れていかれ、生活環境の全てがコントロ −ルされます。
 一日 中、グル−プの行事に参加させられます。

 

3:無力感とグル−プへの依存
  友人、家族、職場、学校等、社会生活全般から隔離されます。信者は本来の自分 を失い、グル−プへ依存するようになります。

4:古い行動と様式の排除
    このような状況の中で信者は入信前に身に付けていた普通の社会の習慣や生活、態度、   感情の表現を禁止されます。
5:新しい行動規範の浸透
  そのうえで教祖(リ−ダ−)の教えに基づいた、破壊的カルトグル−プ独自の習 慣、生活態度言葉等が教え込まれます。間違いは罰せられます。

6:絶対的な教義

 教祖(リ−ダ−)の教えは絶対的なものであり、疑問や質問は許されません。 こうした巧みなマインドコントロ−ルの結果、信者は正常な人間関係を失い自分で物事を判断 することができなくなります。非常に不安定な精神状態に陥り、恐ろしい妄想にとりつかれた りします。グル−プから離れられなくなり、やがて信者は知らないうちにグル−プの奴隷になっていくのです。



4 :スティ−ヴン・ハッサン氏


  スティ−ヴン・ハッサン氏は19才から、2年半の間、ある破壊的カルトに入信し、両親の 愛情によって救出カウンセリングを受けることができました。脱会後、ケンブリッジ・カレッ ジでカウンセリング心理学の修土号を取得しました。この22年間の間に破壊的カルトのマイ ンドコントロ−ルを研究し、全世界で、多くの人たちに救出カウンセリングをしてきました。 現在アメリカのボストンでプロ・カウンセラ−として働いていて、彼の専門知識は国際的にも 認められています。ハッサン氏の『マインドコントロ−ルの恐怖』という本は日本で翻訳され 、ベスト・セラ−になりました。
 ハッサン氏は破壊的マインド・コントロ−ルは、次の4つの基本的構成要素からなると考えて います。

 

A:行動コントロ−ル
B:情報コントロ−ル
C:思想コントロ−ル
D:感情コントロ−ル

 

  これらの4つの構成要素は、マインド・コントロ−ルを理解するための指針であって、破壊的カルトがこの4つの要素をすべて実践し、また極端な形で行なっているというわけではありま せん。最も問題となるのは、ある個人が現実の選択を行う能力や自由意思に与える包括的なイン パクトであります。個人の独自性や才能、技能、創造性、自由意思は尊重されるべきであって抑圧されるべきではありませんが、マインドコントロ−ルは破壊的カルト・教祖(リ−ダ−)のイメ−ジ通りに人々を作り変えようとするものです。この過程は「クロ−ン化」として知られています。こうして生まれた「カルトのアイデンティティ」は、その人間にとって重要な人間関係や必要な信念、価値観を含む、それ以前のアイデンティティからその人を分類するための系統的プロセスの結果、造り出されたものです。こうして二重の自己「アイデンティティ」が生み出されるのです。

 

A:行動コントロ−ル
1:個人の物理的現実に対する規制
  a:メンバ−は、どこで、どのように、誰と暮らし、付き合うか
  b:どのような服、色を身につけ、どんな髪型をするか
 c:何を食べ、飲み、何を受け入れ、何を拒絶するか
  d:どれくらい眠ることが許されるか
 e:性行為の規制
  f:経済的依存
 g:余暇、娯楽、休暇に費やす時間の著しい制限又は禁止
2:ほとんどの時間を教化セッションや集団儀式に捧げる義務
3:重大決定に際し許可を受ける必要性
4:思想、感情、行動を上位者に報告する必要性
5:報酬と罰(行動修正技術−肯定と否定)
6:個人主義の抑圧、集団思考の徹底
7:厳格な規則と規制
8:服従と依存の必要性
B:情報コントロ−ル
1:だましの利用
:意図的な情報隠蔽
:都合の良い情報の歪曲
c:完全な虚言
2:外部の情報源に対する接触を最小限に抑制もしくは禁止
a:本、記事、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ
b:批判的情報
c:元メンバ−(脱会者)
d:メンバ−に考える時間を与えない
3:情報の区分、外部者対内部者の教義
a:情報は自由に入手不可能
b:内部ピラミッドの各レベルや任務により情報が変化
c:教祖(リ−ダ−)が「誰が何を知るべきか」を決断
4:他のメンバ−に対するスパイ行為の奨励
a:二人でペアを組む「二人組制」による監視、管理
b:集団から逸脱した思想、感情、行動をリ−ダ−へ報告
5:破壊的カルトが作り出した情報やプロパガンダの大量使用
a:会報、雑誌、日誌、音声テ−プ、ビデオテ−プ等
b:グル−プ以外の出典からの誤った引用、表現
6:告白の非論理的使用
a:自己(アイデンティティ)の境界を取り除くために「罪」についての情報を利用
b:操作,管理するために用いられる過去の「罪」容赦・赦免は認めない

C:思想コントロ−ル
1:集団の教義を「心理」として主観化する必要性
a:地図=現実(集団の教義が現実世界唯一の「地図」)
b:白と白思想(現実世界を黒か白かの二者択一に還元)
c:神対悪魔
d:我々対彼ら(内部対外部)
2:「詰め込み言語」の採用(思考を停止させる決まり文句」を特徴とする)
 言語は、われわれが考える際に使用する道具である。しかし、この「特 別な言語」は理解を広げるどころかむしろ押さえつける。経験の複雑性を陳腐でくだらない「パス・ワ−ド」に変える機能を果たす。
3:「良い」「正しい」思考のみ奨励
4:思考停止技術)「否定的」考えを廃止し「良い」思考のみを許可することで
  「現実検査」を締め出す)合理的分析・判断的思考・建設的批評の拒絶
a:否認、合理化、正当化、願望的思考
b:詠唱
c:瞑想
d:祈祷
e:「異言」(宗教的法悦に伴い恍惚状態で語る意味不明の言葉)
f:歌あるいはハミング
5:教祖(リ−ダ−)、教義、政策に対するいかなる批判的疑問も正当化
  さされない

6:いかなる代替信仰体系も正当、優良、有用とは見なされない
D:感情コントロ−ル
1:人間の感情を操作、範囲を狭める
2:問題があれば、常に教祖(リ−ダ−)や集団ではなく「彼ら」が悪いと感  じ  るよう仕向ける
3:罪悪感の過剰な利用
a:自己(アイデンティティ)の罪悪感
イ:自分は誰なのか(潜在能力を十分に生かせない)
ロ:家族
ハ:過去
ニ:所属先
ホ:思想、感情、行動
b:社会的罪悪感
c:歴史的罪悪感
4:恐怖感の過剰な利用
a:自発的思考への恐怖
b:[外部」世界に対する恐怖
c:的に対する恐怖
d:[救世主」を失うことの恐怖
e:集団からの離脱や遠ざけられることへの恐怖
f:非難への恐怖
5:感情の極端な高ぶりと落ち込み
6:儀式と瀕繁に行われる公の「罪」の告白
7:恐怖症への教化
脱会あるいは教祖(リ−ダ−)の権威への疑問に対する不合理な
恐怖感の植え付けによりマインド・コントロ−ル状態にある人間は、
集団の中にいなければ肯定的で充足した将来を思い描くことができない。




a:集団の「外」では幸福も充足も得られない
b:離脱すれば恐ろしいことが起こる−「地獄」「不治の病」「事故」「自殺」「狂気」「一万回の輪廻転生」等
c:脱会者の締め出し
d:友人、仲間、家族から拒絶されることへの恐怖
e
:正当な脱会の理由は存在しない

集団の見解では、脱会者は−「弱い」「修行不足」「世俗的」「家族やカウンセラ−に洗脳された」「お金、セックス、ロック音楽に勧誘された」人たちとなる。



 トップページ

inserted by FC2 system